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名古屋地方裁判所 昭和42年(行ウ)47号 判決

名古屋市中区東陽町二丁目四番地

原告

伊藤美津子

右訴訟代理人弁護士

山口源一

右訴訟復代理人弁護士

高木修

同市同区南外堀町六丁目一番地

被告

名古屋中税務所長

土井実

右指定代理人

松沢智

越知崇好

山下武

井原光雄

右当事者間の昭和四二年(行ウ)第四七号所得税決定処分取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が原告に対し、昭和四一年五月一八日付で原告の昭和三六年度分所得税に関してなした決定処分のうち、所得金額四一八、〇〇〇円を越える部分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一、被告は原告に対し、昭和四一年五月一八日付で原告の昭和三六年度分総所得金額を金八九三、五〇〇円、所得税額を金一三七、五〇〇円と決定する課税処分をした。

二、原告は昭和三四年七月一七日訴外宮田春吉より別紙目録記載の土地(以下本件土地と略称する)を代金三九〇、〇〇〇円で買受け、昭和三六年四月一五日には右土地を訴外安藤守に金七〇〇、〇〇〇円で売却した。ところで同人はその後本件土地を自己が代表取締役をしている訴外富士精機株式会社(以下富士精機と略称する)に譲渡し、同社の計算書類には右土地を一、七〇〇、〇〇〇円で譲り受けた旨の記帳がある。しかるに被告は原告が昭和三六年四月一五日に本件土地を同会社に金一、七〇〇、〇〇〇円で売却したものと認定し、そのため昭和三六年度分の原告の総所得金額を金四一八、〇〇〇円とすべきところを前記第一項のような誤つた金額を確定した。

三、そこで原告は昭和四一年五月二四日被告に対し異議の申立をしたが、同年八月五日付で異議棄却の決定があり、原告はこの決定に対し同年九月五日名古屋国税局長に審査請求をしたところ、昭和四二年六月七日審査請求棄却の裁決があつた。

四、以上のように原告の昭和三六年度分の総所得金は金四一八、〇〇〇円であるから、右金額を越えて原告の所得を認定した被告の処分は違法である。よつて申立のとおり判決を求める。

被告代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として

一、請求原因第一項及び同第三項の事実は認める。

二、同第二項の事実中富士精機の計算書類に本件土地を金一、七〇〇、〇〇〇円で譲り受けた旨の記帳があること、原告が昭和三六年四月同会社に本件土地を金一、七〇〇、〇〇〇円で売却した旨被告において認定したことは認めるが、その余の事実は否認する。

三、同第四項は争う。

と答え、被告の主張として、次のとおり述べた。

原告の昭和三六年度分総所得金額は金八九三、五〇〇円であるから被告の本件課税処分には何ら違法はない。

即ち

(1)  訴外安藤は昭和三六年初め頃原告から本件土地を買受けてほしい旨申入れを受けたが偶々安藤が代表取締役をしている富士精機が工場拡張のため現工場の隣接地(名古屋市西区山田町大野木七〇三の一田二二〇坪)を取得する必要に迫られていたため安藤は本件土地を富士精機が取得し右隣接地と交換することを計画し、当該隣接地の所有者である訴外米本浅次郎に本件土地との交換方を申入れた。幸い同人からこれに応ずる旨の承諾を得たので富士精機は原告から本件土地を金一、七〇〇、〇〇〇円で買受けることに決め原告との間でその旨の売買契約を締結し訴外安藤が富士精機を代表し昭和三六年四月六日訴外三菱銀行名古屋駅前支店宛額面一、〇〇〇、〇〇〇円の小切手を振出しこれを原告に交付し、更に同月一五日には同様に前記支店宛額面七〇〇、〇〇〇円の小切手を振出し右小切手を現金化し同額の現金を原告に支払つた。

従つて原告の昭和三六年度における譲渡所得算出の詳細は次のとおりとなる。

(一)  本件土地の譲渡価格 一、七〇〇、〇〇〇円

(二)  本件土地の取得価格(但し必要経費を含む) 三九九、〇〇〇円

(三)  譲渡差益-((一)-(二))- 一、三〇一、〇〇〇円

(四)  特別控除額(旧所得税法第九条第一項本文による) 一五〇、〇〇〇円

(五)  課税譲渡所得金額-((三)-(四))×5/10 五七五、五〇〇円

(2)  なお原告は昭和三六年度中に訴外富国ミシン製造株式会社(以下富国ミシンと略称する)から給与として金四〇七、五〇〇円の支払をうけたので同年度における原告の給与所得は右金額から給与所得控除額金八九、五〇〇円(旧所得税法第九条第一項第五号による)を控除した残額金三一八、〇〇〇円である。

(3)  以上(1)(2)によれば原告の昭和三六年度における総所得金額は給与所得三一八、〇〇〇円及び譲渡所得五七五、五〇〇円の合計金八九三、五〇〇円となる。

原告訴訟代理人は被告の主張に対し

(イ)  (1)の事実中(二)、(四)の数額は認めるが、その余の事実は否認する。昭和三六年中頃原告に本件土地を処分するよう勧めたのは訴外安藤であつて、原告の方から本件土地を買受けるよう右安藤に申入れた事実はない。

(ロ)  (2)の事実は認める。

(ハ)  (3)は争う。

と述べた。

原告訴訟代理人は証拠として甲第一ないし第四号証、甲第五号証の一ないし六二、甲第六ないし第八号証を提出し原告本人尋問の結果を援用し乙第一号証、乙第七ないし第一三号証の成立を認めるが、その余の乙号各証の成立は知らない。と述べた。

被告代理人は証拠として、乙第一ないし第三号証、乙第四号証の一、二乙第五号証の一、二乙第六ないし第一三号証を提出し証人安藤守、同山下武の各証言を援用し、甲第一ないし第四号証の成立を認めると述べ、その余の甲号各証については認否をしない。

理由

一、請求原因第一項及び同第三項の事実については当事者間に争いがない。

二、そこで本件の争点である、原告が昭和三六年四月頃本件土地を金一、七〇〇、〇〇〇円で富士精機に売却した事実の有無を検討する。

成立に争いのない甲第一ないし第四号証乙第一号証、乙第七ないし第一一号証及び証人山下武の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第五号証の一、二、乙第六号証並びに証人安藤守、同山下武の各証言を綜合すれば次の事実が認められる。

即ち原告は富国ミシンの役員であり訴外安藤は富士精機の代表取締役であつたが、富士精機と富国ミシンとの間には取引関係があり原告は右安藤と顔見知りであつたので昭和三四年七月頃安藤の世話で本件土地を訴外宮田春吉から相当廉価で買受けたものの原告は同三七年四月頃右安藤から本件土地の値上りの話を聞き同人に本件土地を買取つて欲しい旨申入れるに至つた。

これに対し安藤は将来富士精機の施設を拡張する都合上同社裏手の隣接地を手に入れようと望んでいたため本件土地を富士精機が取得し右隣接地と交換することを考え、当該隣接地の所有者である訴外米本浅次郎に本件土地との交換の話を持出したところ、同人がこれに応ずる意向を示したので富士精機としても原告から本件土地を買受けることに決定し同年四月初旬頃原告と富士精機の間で原告が同社に本件土地を金一、七〇〇、〇〇〇円で売渡す契約を締結した。ただ富士精機は買入資金の都合がつかなかつたため原告にその件を相談したところ原告は富士精機のため富国ミシン名義で額面金額合計一、八〇〇、〇〇〇円に相当する四通の為替手形の引受をし右四通の融通手形の割引により富士精機に本件土地の買入資金を捻出させた上、同月六日には額面一、〇〇〇、〇〇〇円の小切手(富士精機振出)を、更に同月一五日には現金七〇〇、〇〇〇円を夫々右安藤から受領し、他方富士精機は額面一、八〇〇、〇〇〇円の約束手形を振出しこれと交換に右四通の融通手形を回収し富国ミシン及び原告との間を決済した。

以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中には右認定に反する部分があるけれどもこれは前掲証拠に照したやすく措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、原告が昭和三六年四月頃本件土地を訴外富士精機に売却し金一、七〇〇、〇〇〇円の売買代金を受領したことは明らかであるから、被告が原告の昭和三六年度におけるる譲渡所得の算定にあたり本件土地の譲渡価格を金一、七〇〇、〇〇〇円と認定し、右譲渡価格から本件土地の取得価格三九九、〇〇〇円及び特別控除額一五〇、〇〇〇円(いずれも当事者間に争いのない数額)を差引いた残額の一〇分の五にあたる金五七五、五〇〇円をもつて本件譲渡所得金額と決定したことは適法である。

三、したがつて右譲渡所得金額に同年度の給与所得金額三一八、〇〇〇円(当事者間に争いのない数額)を加算した合計金八九三、五〇〇円をもつて原告の昭和三六年度における総所得金額と決定した被告の本件課税処分は適法である。

四、よつて右課税処分の違法を主張し右金額中金四一八、〇〇〇円を超える部分の取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却を免れないので、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西川力一 裁判官 片山欽司 裁判官 豊永格)

物件目録

(一) 名古屋市西区山田町大野木一三五三番の一

一、田 五四二平方米(五畝一四歩)

(二) 同所 一三五三番の二

一、田 七六平方米(二三歩)

(三) 同所 一六九四番

一、田 一三五平方米(一畝一一歩)

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